(お話)色鉛筆がつなぐ利行
利行は、「りぎょう」と読みます。2016年に豊川高校の学園祭で登壇した際にお話しした内容です。
永平寺を開かれた道元禅師様のおことばに、「利行は一法なり、普(あま)ねく自陀(じた)を利するなり。」とございます。利行とは相手にとって利益になることを考えて、こちらが何かさせていただくことです。続く、普ねく自陀を利するなりとは、その行いは、相手のためだけではなく自分のための行為にもなるという意味です。わたしにもそんな経験がございます。
東日本大震災が起きた翌年になりますが宮城県亘理町の仮設住宅へ傾聴ボランティアに伺いました。なにかできることはないかという気持ちで伺いましたが、私は少しでも現地の方のお役にたてるのかどうか、不安でした。
会場には、だいたい20名くらいの方がいらっしゃいました。50~70歳くらいの方が多かったと思います。私は参加者のかたから、当時の様子、原子力発電所のことご家族のことなど、できる限り経験を共有したいとひらすら耳を傾けました。
1時間を過ぎたころです。こちらで用意した写仏(仏様のぬりえ)のレクリエーションをはじめました。こちらからぬりえの用紙と12色の色鉛筆をお配りします。みなさんと一緒にそれに熱中してあっという間に2時間が過ぎました。私は終了の時間が近づいたことに正直ほっとしてしまった反面これでよかったのかなという思いが交錯します。
さて終了の時間が近づき部屋の片付けをすることになりました。それは参加者の方と一緒に色鉛筆を片付けているときのことです。実は私は色弱ともうしまして赤と緑の区別がつきにくい体質です。クラスに一人くらいはいるものでして、一昔前は特定の職業に就職できないなど、いろいろ不便なこともあったようです。中学に入るころに母親から神妙な顔つきで実はあなたは、「色弱なのよ」と告白されました。私はそのことで不自由したこともありませんので、なんともなく受け入れられたことをおぼえています。
12色ある色鉛筆を片付けるのですが当然私は色の区別がつきません。みなさんがそろえるように12本うまくそろえることが出来ません。周りの人に色を確認しながら片付けます。「これは赤ですか?」「茶色ですか?」聞かれた方は不思議そうな顔をして、そうよ?ちがうよ?と答えてくれます。そのとき私の隣には、現地で案内してくれた社会福祉協議会の職員さんが座っていました。40歳くらいの女性の方です。「どうして?」というので「いえね、色弱でしてね」と答えると、「はやくいいなさいよ」と、私の手の色鉛筆をぱっととって周りおじいさんおばあさん方と一緒に片付けてくれました。そのとき触れた手は本当に温かく感じました。私は「はっ」と思い、とても安心した気持ちになりました。参加して頂いたみなさんに初めて受け入れられているようなそんな気持ちです。
私は何かのお役に立ちたいとボランティアに行ったのですがそれと同時に私自身もたすけられていたのです。「利行は一法なり、普ねく自陀を利するなり。」その行いはいつのまにか自分に返ってくるものなのです。
令和4年2月17日
北松山 西湖院 小原良淳
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